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大阪地方裁判所 平成5年(ヲ)5677号 決定

申立人(債権者) 大阪新都市開発株式会社

代表者代表取締役 太秦俊一郎

代理人弁護士 中務嗣治郎

岩城本臣

森真二

村野譲二

加藤幸江

三浦和博

安保智勇

浅井隆彦

生口隆久

中光弘

相手方(債務者) 市之瀬汎

相手方(所有者) 石村徳子

主文

相手方らは、別紙物件目録≪省略≫記載の土地につき、建物の建築をしてはならない。

執行官は、申立人の申請により、上記土地につき、相手方らが建物の建築を禁止されていることを適宜な方法で公示することができる。

申立人のその余の申請を却下する。

理由

1  申立の趣旨及び理由の要旨

(一)  申立の趣旨

(1)  相手方らは、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という)につき、建物の建築及び工作物の設置をしてはならない。

(2)  執行官は、相手方らが本件土地につき、建物の建築及び工作物の設置を禁止されていることを公示しなければならない。

(二)  申立の理由の要旨

(1)  申立人の不動産競売申立(前記基本事件)に基づき、本件土地につき、平成五年六月一一日、差押登記がなされた。

(2)  本件土地は、申立人の抵当権設定当時、その地上に鉄骨造陸屋根五階建て店舗兼共同住宅の底地であったが、同建物は老朽化していたため、前記抵当権設定後間もなく取り壊され、その後平成五年六月頃までは駐車場として利用されてきた。

(3)  ところが、平成五年八月一六日頃、本件土地上に屋台村のテナント募集の立て看板が立てられ、基礎工事のためとおぼしき木杭が打ち込まれているのを申立人が発見し、現地で測量を行なっていた者に事情を聞いた所、いわゆる屋台村を作るために測量を行なっている旨の回答があった。

(4)  したがって、相手方らは、本件土地に建物を建築し、これを、屋台村として建物をいくつかに区画して各別の賃借人に賃貸することを計画しているものと考えられ、このような状態になれば、買受人は多数の賃借人を含めて明渡請求訴訟を余儀なくされることになり、本件土地につき著しい減価が生ずるのは明らかである。

よって、請求の趣旨記載の保全処分を求める。

2  当裁判所の判断

(一)  本件土地につき、申立人を権利者とする抵当権(最先順位抵当権である。)設定当時、建物が存在したとのことであるから、同建物が債務者所有のものであれば、法定地上権の成否が問題となるところであるけれども、本件においては本件土地上には差押時点で建物は建っていなかったものと認められる(評価書によれば、平成五年七月二日時点で、動産として評価すべき簡易な構造物があるほかは駐車場になっていたことが認められる。)から、信義則上、差押以後に建物を建築しても法定地上権の主張をすることは許されないものと解すべきである。

(二)  そうすると、所有者は差押時点の本件土地の現況(更地)を著しく変更しない限度で、通常の用法にしたがって本件土地を利用できるのにとどまると解すべきところ、申立人の提出した資料によれば、前記(二)(3)の事実が認められ、これによれば、主体は必ずしも明確ではない(看板の名義人は「カラオケハウスウイング杉山」であるが、これは仲介業者に過ぎない可能性があり、事業主とは認められない。)が、何者かが本件土地につき、建物を建て、それを区分して飲食店等として賃貸している可能性が強い。

このように、差押当時更地である土地に建物を建て、多数の者に賃貸することは、買受人が本件土地を実際に利用しようと思えば、建物所有者のみならず各賃借人に対し、建物収去もしくは建物退去土地明渡訴訟を余儀なくされるのであるから、買受希望者の買受の意欲を大きくそぐものであって、不動産の価格を著しく減少する行為といわざるを得ない。

(三)  しかしながら、建物を建てずに、この場所に移動式の屋台等を置くのにとどまる場合までもがすべて著しい価格減少行為に該ると認めることはできない。

(四)  よって、建物建築に限り、担保を立てさせないで、相手方ら(前記の通り、屋台村を計画しているのが誰なのかは必ずしも明確ではないが、民事執行法五五条の保全処分は、その相手方が債務者及び所有者に限られるのである上、執行妨害に対する緊急の対策として、差押の効力によりもともと禁止されている価格減少行為を明確にして禁止するにとどまる以上、具体的行為者を特定しなくても、可能性のある債務者らに対して発することが許されると解する。)に対し、これを禁止することとする。

なお、申立人はこのことの公示を求めているが、執行官保管に伴う公示ではなく、独立の公示のみの保全処分については、問題はあるが、建築禁止保全処分がなされていることを明らかにして、これを無視する行為をやりにくくするという、不作為命令の実効性を確保するための補充的なものとしてこれを認めることとする。

よって、主文の通り決定する。

(裁判官 富川照雄)

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